第五章:マッチングアプリに潜む勧誘の実態

――恋愛だと思ったら、別の世界だった(前編)

社会人一年目の冬、二十三歳だった。
それまで彼女がいたことはなく、年齢だけが増えていくことに対する焦りがあった。
周囲が当たり前のように恋愛をしている中で、自分だけが取り残されている感覚。
その不安から、マッチングアプリを始めた。

ほどなくして、年上の女性とマッチした。
会話は驚くほど自然だった。
仕事の話、趣味の話、価値観の話。
話題が途切れることはなく、ただ話を聞いてもらえるだけで、心が満たされていった。

「会う?」

向こうからそう言われたとき、迷いはなかった。
女性と会った経験のない自分には耐性がなく、ただ嬉しさだけがあった。


想像と違う待ち合わせ

待ち合わせ場所は、直前になって変更された。
聞いていたのはカフェだったが、実際に指定されたのは、とあるアミューズメント施設だった。

到着すると、想像とはまったく違う光景が広がっていた。
男女の若者が集団で卓球をしていた。
人数は十人ほど。
サークルのような雰囲気だった。

驚いたのは、そこにいた何人かが、自分の名前を呼んだことだった。

「○○くんだよね?」

まるで以前から知り合いだったかのような距離感。
実際に会ったのは初めてなのに、すでに“仲間”として迎え入れられているような感覚だった。

この時点で違和感を覚えるべきだったのかもしれない。
だが当時の自分は、何も疑っていなかった。


少しずつ生まれる違和感

正直に言えば、その瞬間に強い違和感を抱いていたわけではなかった。
むしろ「輪に入らなければならない」という妙な使命感が生まれていた。

社会人として、コミュニティに属し、人間関係を広げることは正しいことだと思っていた。
この集団の中でうまくやっていかなければならない。
そんな感覚に支配されていた。

今振り返れば、それは恋愛感情でも友情でもなく、
ただ「居場所を失いたくない」という心理だったのだと思う。


集団の中で過ごす時間

その後も、何度か集まりに参加した。
アミューズメント施設、ボウリング場、ファミレス。
特別なことは何もないが、いつも同じようなメンバーが集まっていた。

年末にはクリスマス会にも参加した。

場所はオフィスビルの一室だった。
テナントの一室に、三十人を超える若者が詰め込まれていた。
一人ひとりの距離は三十センチもなかったと思う。
身動きが取れないほどの狭い空間で、大声を出しながら盛り上がっていた。

今思えば、異様な光景だった。
だが当時の自分には、それが「普通」に見えていた。

正直なところ、集団の中には可愛い子もいた。
この中で誰かと仲良くなれればいい。
そんな邪な考えもあった。

ちなみに、この集団の中で、もう一人マッチングしていた相手がいたことは、ここだけの話だ。
直接話すことはなかったが、その事実も、当時は特に気にしていなかった。


呼び出し

そんなある日のことだった。
ボウリングが終わった後、マッチしていた彼女から声をかけられた。

「ちょっと話せる?」

集団から離れ、二人で歩いた。
すると彼女は言った。

「車でここまでついてきて」

その言葉を聞いた瞬間、空気が変わった。

このときはまだ知らなかった。
この出会いが、自分の価値観を根底から揺さぶることになるとは。

(…後半へ)

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